直虎からスピリチュアルまで

~当たりまくりの若きマッサージ師 in 浜松

H氏(セラピスト)

2017年初め、浜松を訪れた。遠地出張のときはホテルでマッサージをお願いすることも多い。今回もフロントに電話して、マッサージを依頼したのだが、それがH氏との出会いだった。

もちろん夕食は浜松餃子だ


やってきたのは若者だった

 ホテルの大浴場で体をほぐしておく。夜10時、やってきたマッサージ師は若い男性だった。経験上、マッサージはベテランが良いと思っていた私は、正直がっかりした。一応、聞いてみる。

 

「お若いですねえ。何年くらいやってるんですか」
「5年ですね」

 

 やはり若い・・・でも、来てしまったものは仕方ない。全身マッサージ、特に肩と腰のコリがひどいと告げた。40分コースである。

 

「では、横向きになってください」
「横向きですか」

 

 それは珍しい。普通はうつ伏せである。腰の辺りをさわさわされ、指を立ててくる。

 

「おお、なんか当たってますね」
「すごい凝ってます」
「そう?」
「すごいです」

 

 驚いたことに、揉むところ、ことごとくツボを捉えている。気持ち良い。

 

「あー、そこ、そこ」
「当たってますか」
「いや、当たりまくり」
「ほぼ9割がた、当たります。残りの1割は、平板でどこがツボかわからない人がまれにいます」

 

 この人、悪くないかも、と思い始める。

 

 さて、マッサージを受けながら地元情報を得るのはオジサンならではの趣味である。浜松と言えば、ここが舞台の大河ドラマが始まったばかりだ。ここから攻めよう。

 

「井伊家の菩提寺があるよね、龍譚寺だっけ」
「僕、その近くに住んでるんです」
「へえ、そうなの」
「その近くにもう一つ別な神社があって、そこがとっても好きなんです」
「へえ。なんで好きなの」
「落ち着くんです。何度行っても、いいんです。」
「パワースポット、みたいな?」
「そうです、そうです」
「お寺とか神社とか好きなの?」
「好きですね。いろいろ行ってます」
「それはやっぱり、こういう東洋医学をやってることと関係あるの」
「それはありますね。でも東洋医学だけじゃなくて、西洋医学とか、いろいろ統合する考え方が最近はあるんです」
「へえ、初めて聞いた」
「僕、それで有名な施術師に教わったことがあって、それからいろいろ調べたり勉強したりしてます」
「へえ、若いのにすごいね」
「奥が深いので、楽しいです」

 

物質は振動している

 こちらも楽しくなってきて、話は続く。

 

「うちの嫁さんも、赤ん坊抱いて腰痛めたときに、ある整体に通って、治っちゃったの。背骨をまっすぐにするっていうのがコンセプトみたいなんだけど、力いれないの。まっすぐにするのに」
「ああ、それは『氣』ですね。わかります。そういう手の力って、あるんです」
「そうなの?」
「これ、説明するなら、振動なんです」
「振動?」
「僕、こういうのしてるんですけど(数珠のような腕輪を見せる)。これ手にしてると、体調が良くなるんです」
「ああ、よく売ってるけど、本当に効果あるもんなの?」
「あります。物質は振動してるんです。ものすごい速さで」
「ああ、水晶は振動するね」
「それです。だから、その振動がこの腕輪から全身にいい影響を与えるんです」
「なるほどお」
「だから手も、そういう電子とか原子とかが振動して、そういう作用で力を与えることができるんです」
「おお、ちゃんと科学的に説明できるわけだ」

 

 話している間も、肝心のマッサージの方もいっときも休まず続けられている。この間、相変わらず当たりまくって、私は「あー、そこそこ」を連発している。

 

幽体離脱

 会話は体のことから、次第にスピリチュアル系に移っていった。

 

「考えてみれば、生きてるって不思議だよね」
「そうですね」
「魂ってあるのかね。僕は結構そういうこと考えるの好きなんだけど。立花隆の『臨死体験』とか読むし」
「僕、臨死体験はないですけど、幽体離脱ならあるんです」
「ええっ?」
「それも今年に入ってからです」
「ええっ?つい先日って感じ?」
「そうです、つい先日です」
「何なに、どうなったの?」
「僕、なんかよく金縛りにあうんですね。で、そのときも金縛りになって、動けないでいるうちに、何だか現実の自分の体と心が、違和感を感じたんですね」
「違和感・・」
「なんか一致していないような。それで、少しずつ精神が体から離れて行って、明らかに、上に浮いたんです」
「自分の体が外から見えたの?」
「いえ、目が開けられないから何も見えないんです。でも確かに浮いてるんです」
「それで?」
「このまま元に戻らなかったら、死んだってことになるんじゃないかと思って怖かったんですけど、少しずつ少しずつ、また体に近づいて行って、そーっと、元に戻ったんです」
「えええええ!」
「それで思ったのは、死ぬのって、怖くないなと」
「死ぬって、つまりそうやって離れた心が、もう二度と体に戻らない状態ってことかな」
「そうですね、こうやって心が体から離れるのが死ということなら、全然怖くない」
「そうだねえ。そうすると、それが魂ってやつだね」
「そうですね、きっと。輪廻とかって、あるのかもと思うんです」
「そこ、僕も不思議なの。輪廻って、心が次の別な体に入ることだとすると、その前の記憶がないってのはどういうことなのかな」
「その辺は、よくわからないんですけど」
「生きものとか、意識って何かなってよく考えるんだよね。物質の塊にすぎなかったら、どうしてこうやって『意識』があるんだろうって」
「ほんとそうですね、何かあると思います」

 

  5分オーバーでマッサージ終了。ツボも話も当たりまくりである。

 

マッサージ師と名刺交換

 「いやー、すごい気持ちよかった。話も面白かった。また機会があったら、指名とかできるの」
「できますけど、僕、自分のお店もやってまして」
「あー、じゃあお店に行ってもいいな。名刺とかある?」
「はい」
「じゃあ、これ僕の。これも何かのご縁だから。楽しい話をありがとう」
「僕も楽しかったです。ありがとうございました」

 

  マッサージ師と名刺交換したのは初めてである。終わった後もツボのプレッシャーがじんじんと心地よく、あー気持ちいいと思いながら、翌朝までぐっすり眠りについた。翌日の仕事はバッチリであった。

 

(取材:2017年1月)

(2017-07-24 岡崎道成)