布施雄一郎
1968年、北海道生まれ、福岡県育ち。楽器メーカー勤務時代にYMOのコピーバンドVMOのドラマーとして活動を始め、その後、インディーズバンドでもプレイ。現在は音楽テクニカルライターとして数多くのミュージシャンの取材記事を手掛ける。今回はドラム担当として渦中の人となる。
(画像:YMOトリビュート)
(主催者の)小林さんとは、そんなに頻繁にやり取りするような間柄ではなかったんですけど、2015年に横浜の赤レンガ倉庫でやったYMO楽器展の時に会場でお会いして、「お久しぶりです」って挨拶したんです。そのとき小林さんから、「香津美さんが弾いてくれるかも知れないので、そのときはドラムをお願いするかも」と言われました。一応「ぜひぜひ」とか言いつつ、あんまり気にしてはいなかったです。正直、実現するなんて思ってませんでしたから(笑)。
それから2年間、特に連絡はなかったのですが、去年(2017年)の6月に小林さんから突然メッセージが来ました。仕事の話かなと思ったらこのライブの話で、既に日程が8月に決まっていて「その日、空いてますか」って。もちろん驚いたし、声をかけていただけて光栄だったんですけど、ちょっと悩みました。ちょうどプライベートでばたばたしていて、8月にライブをやっていられるか、ぜんぜん見通しが立たなくて。一度お受けして、後で「ごめんなさい」できるバンドじゃないですから。
でもそれ以上に、気持ちの面でも「どうだろう?」っていうのがありました。実はこの10数年ほど、YMOのコピーバンドに興味がなくなっていたんです。
YMOコピーバンド "VMO" で、シンボルでもあった "クッキー缶パッド" を叩く布施さん。背後には "ハリボテタンス" も見える(提供:布施雄一郎)
僕自身、17~8年前にVMOっていう“完コピ”(完全コピー)バンドをやってたんですよ。でも、僕らが大事にしていたのは、YMOの精神だったり、センス、ユーモア面、そしてメンバーのYMO愛であって、むしろ機材はわざと本物を使わずに、如何にみんなに納得してもらえるかというコピーを考えていました。
一番わかりやすいのは、松武さんパートのタンス(モジュラ―シンセサイザー)かな。ステージでは、あれを段ボールで "ハリボテタンス" を作って、でも音の方は、当時のアナログ・モジュラーシンセをローランドMC-4で鳴らした音をわざわざDATに録って、それをライブで鳴らしたり。あと、POLYMOOGの外側だけをジャンクで買ってきて、その中にローランドJP-8000を組み込んで、バレないくらいに音色を作り込んで演奏したりしていました。お客さんはリアパネルしか見えないんで、「わーすげー、やっぱりアナログの音はいい!」ってなるけど、でも本当はデジタル・シンセだったっていう(笑)。
だから当時、僕らは“テキ屋バンド”って呼んでました。テキ屋のグッズと同じで、興奮状態で見ると本物そっくりなんだけど、後で冷静になると、「全然違うじゃん!」っていう(笑)。そういう、ちょっと笑える要素を入れて、シャレで楽しむ。まあ、演奏力がなかったってこともあるけど(笑)
でも今回小林さんが目指していたのは、マジじゃないですか。関わる人たちのノリも全然違う。だから同じコピーバンドでも、それまで僕がやってきたこととは方向性が全然違うので、そこが少し不安材料でした。
あと、2000年に最後のVMOライブをやったとき、コピーバンドはもういいかなって思ったんです。自分たちが好きでやってたら、たまたまそれを面白がってくれるYMOファンがたくさんいて、その人たちと楽しくやってきた。でもその頃から、YMOコピーバンド界隈が、なんだかマジになってきちゃって、僕自身、急激に興味を失ってしまったんです。似てる、似てないを言うなら、YMOの昔のライブテープ聴いてるほうが断然楽しいし。
あと個人的には、昔のYMOだけじゃなくて、今現在のお三方の音楽も大好きなんですよ。だから過去のことにスポットを当てるだけでなく、未来につながるものでないと面白くないと思っていたので、トリビュートライブのときも、できれば今のお三方の活動を紹介するようなコーナーが作れるといいなって思ってたくらいなんです。
それでも最終的にトリビュートに参加したのは、”Gueen” っていう、Queenのトリビュートバンドとの出会いが大きかったです。7、8年前にライブに誘われて、初めて観に行ったら、それがすごい面白かった。以来、毎年観に行ってるんです。
僕はQueenのことをそんなに深く知らないけど、それでも楽しい。しかもQueenの熱狂的なファンも大喜びしてる。こういうコピーバンドって理想的だなって思ったんです。演奏はメチャクチャ上手いし、コア・ファンが納得するツボはちゃんと押さえてて、しかもQueenを知らない人まで楽しめる。今回のトリビュートバンドでそういうライブができるんだったら、自分も参加したいなと。
だから、Gueenを知らなかったら、今回、参加してなかったかもというくらいの影響がありましたね。そう考えていたら、最初の顔合わせの時に小池さんが、「“完コピ”を目指すんじゃなくて、“いいバンド”になれればいいんだよ」と言っていて、その言葉を聞いて、「よし、やろう」と迷いがなくなりました。まあ、その後に別の迷いが出てくるんですけど(笑)。
YMOのコピーは久しくやっていなかったので、6月末に参加の返事をして、7月中旬の最初のリハまで1ヶ月間、週3回くらいリハスタ(リハーサルスタジオ)に通いました。自転車って、しばらく乗ってなくてもすぐ乗れるじゃないですか。そういう運動感覚はすぐ戻る。中学時代のエア・ドラム(注)から30年以上やってますんで(笑)。
ただ今回は、要求されるクオリティがはるかに上。だから曲の練習じゃなくて、基礎練習をしました。メトロノームに合わせてひたすら八分音符を叩くとか。それまでは、フレーズをコピーしていたんですが、今回は、ごまかしが効かないだけでなく、音符の行間をコピーすることが大切で。あそこまで基礎練習をしたのは、高校時代のブラスバンド以来ですね。ドラムだけじゃなくて、ストレッチもやったり。ちょうどいいダイエットになったかな(笑)
(注)エア・ドラム:実際にはなく空想で叩くドラム
(画像:YMOトリビュート)
(後編へ続く)
Thank you Good night ! 予告編
横田信一郎さん「MCやってよかったのかな」
小池実さん「目指したのは "いいバンド"」
山内亜矢子さん「ふざけんな、オッサン!」
布施雄一郎さん「ハイハットなしで、どうしようかなぁ」
小林淳一さん 「俺、何のためにやってんだ」
岡崎 「トリビュート考」