Thank you Good night!YMOトリビュート

~「MCやってよかったのかな」横田信一郎さん(後編)


「君たち、おかしいよ」

 今回、音楽の歴史を刻んできたお二方が入ってくれたのは、僕にとっても信じられない瞬間でした。僕も、スタッフなのに最初は感動しちゃって、「横田さんダメ出しして」と言われても「すみません、そういう聴き方できません」と(笑)。でも自分を相当鼓舞して、ダメ出しするようにしていました。

 

 ウラを明かすと、もう松武さんよりファンのほうが詳しかったりする。「ボトムラインのライブではこうでした」と言っても「そうだっけ?」なんてしょっちゅう。こっちが詳しすぎて「君たち、おかしいよ」とか言われたり(笑)。その辺の駆け引きもかなり楽しかったです。テンポ一つとっても、演奏の仕方にしても、ああだこうだとやり合った結果です。聴いてた人たちからするとツッコミ所はいろいろあるでしょうけど。

 

 本番2時間前が、一番いい演奏でした。「リラックスしていこうよ」なんて言ってましたし、機材トラブルもなくて(笑)。僕が「じゃあ準備整ったら行ってみましょうか」と言ったんですけど、あとから布施さんが「あそこでヘッドホンから横田さんのいつもの声が聴こえてきて、緊張がほぐれた」と言ってくれた。それが唯一、自分がちょっとお手伝いできたと思った瞬間ですね。自分で言うのもアレですけど、割と大変な、七面倒臭いポジションをしてたんで。メンバーの小言とか僕に入ってくる(笑)。それで練習終わってからもああだこうだうるさく言って、2日後にリハやれる状態までみんなを持って行かなくちゃいけない。だから僕は嫌われ者に徹しようと。コアなファンもそうでないファンもいる中で、そこまでやらないと、みんなの心に響くまでにはいかなかったんじゃないかな。 

 

 

「俺の機材がトラブってる!」

 本番の20分前に、アッコちゃんのシンセモジュールが1つ壊れました。「松武さん、壊れちゃいました」って言ったら「あ、ほんとだ。じゃあこっちのやつをこっちに」って、ドライバで分解して差し替えてました。松武さんも慣れたもんで、当時は日常的に起こっていたんでしょうね。

オーバーハイムを修理する松武さん

画像:YMOトリビュート

 でも発射台から打ち上がっちゃったら、管制センターはもう何もできない。ハイハットがトラブったときの布施さんの「ごまかし方」が絶妙で、アッコさんの歌の曲だったんだけど、歌に入る頃には復帰して、嘘みたいにちゃんと決まった。あれは布施さんがよく止めなかったと思いますよ。松武さんが後ろから見てて、布施さんの袖から汗が滴り落ちてたって。あのとき舞台に上がってきたのは、ドラムを提供してくれた人。客席で楽しんでいたのに「あれ、俺の機材がトラブってる、やべえ」って上がってきてくれたんです。袖で控えてた人じゃないんです。

 

MCやって、よかったのかな

 僕がMCで出たのが良かったのかわかんないです。要るか要らないかって言ったら、まったく要らないコーナー。でもトークの間が持つように、とりあえず僕が質問を投げることが前日に決まった。始まる直前、松武さんが「横田監督はどこ行った?」と探してる中で、舞台袖で質問を書いてました。メンバー紹介の音出しも僕がやってて、それが終わってからまだ書いてた。だから前半はまともに演奏聴けてないです。

 

 でも実際ステージに出てみたら、ウケてる人だけじゃなくて、感極まって泣いてる人とかライブに酔いしれている人が見えて、「ヤバい、責任重大だ」って思いましたね。あのトークは、コアな人たちにもわかってもらえるように、でもあんまり深く掘り下げないように、当時の機材の説明だけして、エピソードもなるべく今まで出てきていない話をお二方に言ってもらいました。あとで「わかりやすくて楽しめた」って言ってもらえて、あれくらいで丁度良かったのかも。不思議と「もっと詳しく言ってほしかった」というのはなかった。自分の「たまらない」という気持ちをそのまま言いました。リハのときは「だめだよ、総監督が自分で言っちゃ」って松武さんに怒られましたけど(笑)。でもあの音を聴いてるだけで、あの中にいるだけでホントに幸せなんで。会場には同じような気持ちの人がたくさんいたはずです。終わった直後は「MCなんてなくてもよかったんじゃないか」という思いが強かったけど、ほとんど失禁寸前のオジサンオバサンたちを見れたのは、やっぱりイイことしてるような感覚にもなったし。終わったあと1ヶ月くらい、完全な「トリビュートロス」になってましたね。

 

 打ち上げのときに皆に謝ったことがあって。あの場で全員を紹介できなかったから。彼らは「いいんだよ、俺たち裏方だから」って言うんだけど、その人たちもYMOに衣装で人生を捧げてきたスペシャリストなんですよ。襟の角度に、裾の長さに、インナーに命を懸けてきた人たち。だから演奏者はそれを着ることで、彼らの夢も背負ってる。あとはカメラマンの人も入ってくれて、Facebookに載せる写真を撮ってくれたり。自分たちでは撮影も録画もやってる暇ないから。僕らだけで成り立ってるんじゃないんですよね。 

MC中の横田さん(右)

画像:YMOトリビュート

これは冗談なのか

 1979年当時にYMOの音楽プロデューサーとして衛星中継やらグッズやらを最初に仕掛けた、アルファレコードの川添象郎さんという方が当日いらしてて、「嬉しかった」と言ってくれました。懐かしさで感極まったらしくて。それはやった甲斐があったなあと。川添さんは、僕らが子供の頃に観た「YMO、海外で大成功」の映像を残した方。他にも、1979年にグリークシアターにいて雑誌に記事を書いていた根本恒夫さんもいらしてた。そういう方たちが「何なんだこれは」って。お三方はいないのに後ろの二人はいる、これは冗談なのか何なのか。でも松武さんと香津美さんがその冗談に乗っかってくれたからこそ、成り立ったんです。

 

 皆さんいろんな受け止め方をしてくれています。「あのときと音が違う」って聴く人もいるし、楽しみ方も冷やかし方もいろいろです。面白かったのは、普段YMOなんて口に出してなかったのに「実はYMOメッチャ好き」っていう人が、わんさと出てきた。あの時代の人は、どこかでYMOが基礎にあるんです。学校のオルガンで「ライディーン」弾いてたとか。

 

 僕らよりもっと上の世代は実際にライブを観ていたかもしれないけど、僕らは小学生からせいぜい中高生くらいで、ライブハウスやコンサート会場にいた人はそう多くないと思います。それで盛り上がったと思いますね。テープが擦り切れるまで聴いた憧れのライブだから。みんな一緒に宇宙船「YMOトリビュート号」に乗って、タイムスリップしたイメージです。本音を言うと僕も操縦したかったけど、ステージ上のメンバーは演奏スキルもあるし、個々への思いも強いから、僕は彼らに託して地上の管制センターやってました(笑)。

 

画像:YMOトリビュート

みんなで「オー」ってヤバい

 YMOへの思いはみんな何かしらあります。リアルなライブ会場に足を運ぶのは、もちろん音楽がメインなんだけど、そういう思いを共有するほうが意味があったんじゃないかな。それを喜んでいる人を見れたのが嬉しい。思いは伝染します。泣いたり笑ったりしているのが伝染して、こっちもやってよかったなと思える。あれだけのオジサンたちが、ボコーダーで「TOKIO」と言っただけで「オー」っていう。バスドラを「ドン」と叩くだけで「オー」っていう。ストリップ劇場の客みたいに(笑)。あんなの、他のロックコンサートとかにはないですよ。あの場で僕も託されていたから、無茶ぶりで「CASTALIA」やってもらって、みんなが「オー」ってなった瞬間に「これで役目を果たせたかな」って思いました。

 

 会場に来てくれた人が、昔好きだったことや、追いかけていた夢を思い出すきっかけにしてくれればいいなと思います。家に帰ってまたYMO聴いてみようとか、ライブ動画観てみようとかもそう。ずっと聴かなかった人がまた聴くっていうのは、何かきっかけが必要ですから。

 

 正直、練習のときに険悪なムードになったこともあるし、こんな苦労しないで観客席で観てたほうがよっぽど楽ですよ。じゃあ一体何のためにやってるのかって言ったら、会場に来てくれる知り合いや、当時YMOを仕掛けた人たち、YMO聴いて人生変わっちゃった人たちに喜んでもらいたいということ。それが一番の意味なんじゃないかって思いますね。もちろん最終的には自分たちも楽しいんだけど。

 

 YMOには、機材が好きな人、演奏者が好きな人、音が好きな人、いろんなファンがいます。それは当初そういう「刷り込み作業」をやった大人がいて、YMOを起点に音楽やら本やらファッションやらのカルチャーを作り上げたから。僕ら子供は刷り込まれてるんです。そういう子供が大人になって、あそこに来てみんなで「オー」って、ヤバいでしょ。これは冗談なのか本気なのか。そういう、ひとことで言えない、何だかよくわからない思いが、きっと伝えたかったことです。いっぱいあり過ぎて、自分でもまとまんないです(笑)

Castaliaを無茶ぶりする横田さん

画像:YMOトリビュート

お三方は来るか

 今回、480人超えの人が来てくれました。今度は500オーバーのところで、座席もあるホールでやりたい。今回のライブが、YMOデビュー40周年につなげていく最初のオープニングアクトになればいいなと思ってます。次回はサポーターを募って分担して、衣装も、予算とかをちゃんと決めないと。青天井でやれるわけじゃないんで。そういう、今回よりもうちょっと踏み込んだところをやろうとすると、資金集めにクラウド・ファウンディングを使うことになるでしょうね。単なるそっくりさんでいいのか、エンターテイメントの一つにできるのか。にわかファンもコアファンも楽しめるイベントにするっていうのは、今からしっかり準備しないとできません。

 

 お三方にはもちろん来てほしいけど、何のために来てもらうのか。元々このトリビュートは「ファンが作るイベント」です。ファンが手作りでやっていて、広告代理店とかは一切絡んでない。そういうファンから「来てください、ギャラは出ませんけど」っていうお誘いの仕方をしたいです。実際演奏してもらうのはかなりハードルが高いと思ってます。お三方が客席にいてくれて、こんな冗談を楽しんで聴いてくれて、笑顔になってもらえれば最高ですね。

 

(了)

 

取材:2017年11月

横田信一郎

1969年、東京生まれ。今回のYMOトリビュートライブでは「総監督」を務める。本業の自動車パーツ加工の傍ら、数々のユニークなプロジェクトに関わっており、その活動範囲と人脈は冗談抜きで世界規模。

画像:YMOトリビュート

(構成:岡崎道成)

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