「#MeToo」偽装告発

~エジプト王の侍従長妻

エジプト警察

画像:いらすとや

(エジプト発共同)

 米国映画界のプロデューサーを告発したことに端を発した#MeTooのうねり。しかしこれを逆手にとり、エジプトの高級官吏の妻が無実の男性を陥れるため偽装告発していたことが発覚した。 

 

 セクハラを受けたとして告発されたのは、へブル人の青年ヨセフ。3年前にエジプト王パロの侍従長ポティファルに仕えていたとき、侍従長の妻Aが「自分に乱暴をしようとした」とSNSに#MeTooのハッシュタグをつけて投稿。その後ヨセフはポティファルによって捕らえられ、王宮の監獄に入れられた。しかし先月になって王の召喚により監獄から出されたヨセフが無実を訴えたため、エジプト警察は10日、Aを詐欺の疑いで逮捕した。Aは容疑を大筋で認めているという。ポティファルはヨセフの言い分を確認していなかった。

  

 警察の調べによると、Aは家の財産管理を任されたヨセフに好意を寄せ、「私と寝ておくれ」と毎日のように言い寄った。ヨセフは頑としてこれを拒否し、Aから距離を置こうとしたが、ある日ヨセフが屋敷の中に入ると、A以外誰もいなかった。Aはヨセフの上着をつかんで事に及ぶよう迫ったので、ヨセフは上着をAの手に残して外に逃げた。Aはその直後、#MeTooのハッシュタグをつけて以下を投稿した。

「主人が目をかけているへブル人の奴隷ヨセフが、皆の留守を狙って私の部屋に忍び込み、私に乱暴しようとした。私が驚いて叫んだので、彼は外へ逃げた。彼が残していったこの上着が証拠。#MeToo」

  

 Aは調べに対し、「ヨセフが美青年だったので、我慢できなかった」と語っているという。

エジプト王宮省記者会見(11日)

―事件は偶発的なものか。

被害者ヨセフに好意を抱いたAが、あらかじめ屋敷の者を外に使いに出すなどして行った計画的な犯行である。

 

―事件当時の目撃者はいるのか。

いない。

 

―そもそもヨセフがAに乱暴しようとした証拠はあったのか。

上着が残っている以外は、直接的な証拠はない。

 

―Aがヨセフに言い寄ったという証拠はどうか。

屋敷で働く複数の者が、事件以前にAがヨセフに言い寄るのを目撃しているので、Aがヨセフに好意を抱いていたことは明らかである。

 

―Aは容疑を認めているのか。

大筋で認めている。

 

―動機は。

ヨセフが有能かつ美青年だったので好意を抱いたが、ヨセフが頑として応じなかったために策を弄したものである。

 

―ヨセフが監獄に入れられた経緯は。

Aの投稿を見た侍従長ポティファルが、その場でヨセフを捕らえて王の監獄に入れた。

 

―侍従長はヨセフの取り調べはしなかったのか

本人は「あのときは逆上して、すぐに牢に入れた」と言っている。

 

―それは問題ではないのか。

王の役人の家庭という閉鎖空間でこのような事件が起きたことは遺憾である。

 

―侍従長はヨセフの無実の可能性に思いが及ばなかったのか。

その点については調べを進めている。

 

―再発防止策は。

宮廷に仕える者たちに対し、容疑者逮捕手順の周知徹底を行う。

 

―王はなぜヨセフを獄から召喚したのか。

別件事情によるものであり、本事件とは無関係である。

 

―最近王の体調が優れないこととの関連は。

今後も王のご健康に最大限の注意を払っていく。

 

―王はなぜヨセフの言い分を聞いたのか

王は民の良き理解者である。今回ヨセフの訴えを取り上げたのも、王の深いご配慮である。

 

―王宮省として今回の事件の責任をどのように考えているか。

今後も王が政務を滞りなく行えるよう尽力する。

ヨセフ氏語る

 大変お恥ずかしい話ですが、私は兄弟たちの謀略によってエジプトに奴隷として売られ、主人ポティファルの屋敷に来ました。しかし神が私とともにおられ、私のすることをすべて成功させてくださいましたので、主人は私のことをたいそう気に入ってくださいました。私は屋敷のことをすべて任され、全財産の管理もゆだねられていました。しかし次第に奥様が私に言い寄って来るようになりました。もちろん不道徳は神の前に大きな罪ですし、主人にも信をいただいている身で、どうしてそのような大きな悪事をして、神と主人に罪を犯すことができましょう。それで私は、奥様と二人きりにならないように、できるだけおそばにいかないように努めておりました。しかしある日、仕事をしようとして屋敷の中に入りますと、誰もおりませんでした。料理人や給仕も勤めているはずなのですが、珍しくしんと静まり返っております。私は嫌な予感がして、屋敷を出ようとしました。すると、奥様が入口に立ちふさがっておりました。奥様は、濃い化粧をし、肌が透けるような薄い衣をまとっておられました。私が外に出ようとしますと、奥様は私の腕を掴み、「お願いだから私と寝ておくれ」と言いました。私は必死で奥様を振り切って外に出ました。その時、奥様の手に私の上着が残ったのです。(取材:へブル通信記者エリエゼル)

被害にあったヨセフ氏

画像:いらすとや

社説

 過去に受けた性的被害を告発する女性が次々と現れている中、これに便乗した今回の詐欺事件は、勇気ある真の告発者たちを愚弄するもので、断じて許されない。Aの罪は重いが、同時になぜヨセフを救えなかったのか、何ともやりきれない。ヨセフのほうが性的被害者だったにも関わらず、一つの偽りの投稿によって無実の社会的生命が抹殺されかねない状況には強い危機感を覚える。2年以上の間投獄されていたヨセフになぜ今回光が当たったのかを王宮省は明らかにしていないが、侍従長の短慮がこのような事態を招いたのは明らかで、責任は重い。ヨセフは獄内でもやけを起こさず、他の囚人の管理を任されるなど、獄吏からもすこぶる評判が良かったと聞く。せめてもの慰めである。記者会見での王宮省ののらりくらりとした回答は、事件の責任を回避しようという意図が明らかで、お上による再発防止は期待できない。性的暴力は許されないが、冤罪もまたしかりである。一人一人の思慮ある対応が望まれる。

(参考:創世記39章)